日々のつづき ― 宵

  放課後の教室は、今日も変わらず気だるげな雰囲気が漂っている。童実野高校は、さほど部活動が盛んな高校ではない。さっさと教室を出ていく者、仲のよい者同士でだらだら会話を続けているグループ、様々いるが、城之内たちは後者だった。
「遊戯、今日もデュエルしようぜ」
「いいけど……、城之内くん、今日はバイトないの?」
「あるけど、まだ時間あるからよ」
「私はダンスのレッスンがあるから帰るわね」
「いってらっしゃい、杏子」
 軽く手を振って教室を出ていく杏子を見送ると、早速城之内は遊戯の前の席の椅子に、背もたれを腹側にして座る。薄っぺらい鞄から、これだけはいつも持ち歩いているデッキケースを取り出した。かつてバトル・シティではデュエルディスクを使ったものだが、カードゲームとは、元来テーブルのうえにカードを広げて行うものである。
 相変わらず暇している本田と御伽、獏良もふたりを囲み、あれやこれやとデュエルに口を出す。いつも通りの放課後だった。
 さて、遊戯が二勝したところで城之内は自分の右手首の腕時計を見た。彼がつけているのは百円均一で買った正真正銘の安物である。針は二時十五分を少し過ぎたところを指している。
 城之内の記憶が正しければ、童実野高校で授業が終わるのは三時半である。もちろん今日もそうだったはずだ。つまり。反射的に振り返って、黒板の横の丸い掛け時計を見る。とっくに四時を過ぎていた。城之内はさっと青ざめた。心臓のうちがきゅうと締め付けられるような感覚がある。
 ──今日のバイトは、四時半からではなかったか。
「ああああ!」
 叫んで、立ち上がる。突然の奇行と奇声に、遊戯は目を丸くした。城之内は乱雑に自分のカードを集め始めた。
「悪ィ遊戯! 四時半からバイトだった!」
「あれ、腕時計止まってたの気がついてなかったんだ」
「言えよ獏良! じゃあな!」
 デッキケースにカードを詰め込んで、そのデッキケースを鞄に放り込んで、城之内は教室を出ていった。


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