ただいま ― 七架 もね

  雪道をすっ転んでベチャベチャになったオレを拾ってくれたのは感謝してるぜ。
 制服もオレ自身も頭から足の先まで雪と泥まみれだし、靴ん中までびちょびちょで全身冷え切ってたし。家までまだ遠いから、この状態で歩くとかキツすぎんだろって途方に暮れたのは確かだ。
「ようやく見つけたと思えば泥まみれの汚い犬そのものとは、期待を裏切らない凡骨め」
 車の窓を開けたと思えば開口一番、久しぶりの挨拶の前に腹たつ台詞を浴びせてきやがったのには本気でムカついたし、てめえはオレにどんな期待をしてんだよって二重に腹が立ったけど、そんなオレを高級車に乗せて運搬して、風呂を使わせてくれたのには素直に感謝した。シート汚れたしな。それにあいつ仕事の帰りだったのか、あの眩しい白スーツでさ。そんな服着て、よく隣にオレを座らせるなって感心したぜ。
 聞き捨てならない台詞にはツッコミを入れたけど、それ以外は勘弁してやってオレにしちゃ大人しく運ばれてやった。今回ばかりは本気で礼をしないといけねえなとは思ったし。余程無茶なことでなきゃ、どんなことだろうと聞いてやろうと考える程度には。
 風呂ん中でもいくつか想定してみてさ。まあ、一応知らない仲ではねえし。つうか、そういう仲だし。多少特殊なことを求められても応えてやろっかな、くらいには考えた。
 なにせこんだけバカでかい風呂を使わせてもらって、なおかつ着替えも全部用意されてるわけだし。
 それがあいつの服なのは仕方ない。オレの服は置いてねえしな。置こうかっつったけど、見窄らしくてメイドがゴミだと思って捨てるとか言うから、じゃあてめえの貸せっつった経緯があるからそれはいい。
 いいけど、シャツの上しか用意してねえのはバカなのか?
 メイドさんにちゃんと言っとけよ、オレには足があるって。
 せめてパンツ用意しとけ。パンツもなしにシャツだけって頭おかしいだろ。
「おい!」
 風呂場のドアを蹴って、向こう側にいるはずの家主に声を張る。
「下寄越せ、下。最低限すぎんだろ」


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