誰も知らない星 ― じど

 海馬瀬人の右の側胸部には、おおよそ規則正しく並んだ三つのほくろがある。
 ──と海馬が知ったのは、城之内と初めて肌を重ねたその夜のことだった。
「こんなとこにオリオン座がある」
 互いに服を脱ぎ、白いシーツに身を沈め、愛撫というよりは検分といった指先でそれぞれの肌に触れ合っていた時に、城之内がある一点を見つめぽつりと言った。
 そこは、右の二の腕を下ろせば隠れてしまうような場所。城之内が「ほら、ここ」と肋骨の溝を皮膚の上から何度もなぞるので、海馬は擽ったさから身を捩る。その様を城之内は可笑しそうに見つめた。
「……ほくろなんてあったか?」
「あるよ。めちゃくちゃ薄っすらだけど、オリオン座が」
 星座の種類なんてきっとオリオン座しか知らないだろうに、男はほくろを星に喩える。そんな城之内に海馬は、先程とは違う類の擽ったさを覚えていた。それは、今は亡き母から「瀬人は可愛いね、いい子だね」と手放しで褒めそやされた時の心地を思い出させる。
 以前にも似たようなことがあった。城之内が、海馬の青い瞳を「宝石なんて見たことないけど、宝石みたいだよな」と称したのだ。
 城之内に他意はないのだろう。青いものをサファイアに見立てることも、三つ並んだものをオリオン座に見立てることも、ままあることだ。
 しかし、自分の身体の部位を美しいもので喩えられることに海馬は居心地の悪さを覚え、どう反応すればいいか毎度迷ってしまう。
 つまりは、照れくさいのだ。
「ほら、見てみろって。オリオン座が……」
「わかった、もういい」
 無理矢理話を切り上げると、海馬は城之内の唇に噛み付いた。これ以上ペースを乱されて、折角の初夜が台無しになってしまってはかなわない。
 唇を食み、吐息が溶け合うようなキスをする。互いの舌が行ったり来たりを繰り返し、撫でていないところはないかと口内を念入りに探り回った。


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